螺旋模様

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act.11

written by  みや




24.





『記者は予定通り接触に成功、例の件ではモノはすでにお手元に
 届いたかと思いますが・・・男の方が動いたのは誤算でした』

「ご苦労だった下がって休め」


一方的に話を切り上げた男は携帯を閉じると苛立たしげに
髪をかき上げ壁に背を預けると前方に見えるドアをじっと見つめた
特別室のプレートが掲げられたドアの中に奪い取られた夢がある

夢を現実のものにするため我を殺し影に徹してきた
あと少しで手が届くところまできていたのに


航空便で手元に送られてきた小さな箱は鞄の中にある
銀色に光るケースの中身はシルク糸のような1本の髪の毛
これは1度は潰えたかに見えた夢をこの手に取り戻すために
重要な役割を果たす物



天はまだ自分を見放してはいない

閉じた携帯を鞄に戻し男は夢に続く扉にそっと手をかける

諦めきれないのは富か名声か・・・それとも・・・







25.





司は会議での決定事項をまとめた書類を片手に楓のオフィスに
向かっていた

ある程度までの判断に任されているが大きな取引となると
まだ最終決定には楓の決済が必要とされている
とは言え司が下した判断に楓が否と言う事は殆どない
否定するのではなく認めその上でさらに先を追求してくるのが彼女のやり方だ


彼女の事を母としては認められないが企業人としての
手腕は認めざるを得ない
だからこうして決済を求めねばならない事を歯痒く思う一方
いつかその全てが自分の肩にかかってくるのかと考えると
彼女が引退するその日が恐ろしくさえ思えたりする


司が入っていくと、第二秘書がキーを打っていた手を休め
微笑みかけてきた
第一秘書である西田の机は空、彼はどんな時も楓に同行する
その姿が見えないとなると会長室の中も空だということ



「会長は不在か」

「はい、でもあと10分ほどで戻られる予定になっております」



軽く頷いた司は机の脇をすり抜け会長室に続くドアに手をかけた

背後は一面の板ガラスその前に置かれた大きなディスクの上は
ペンの置き位置ひとつを見ても無駄なく完璧に管理されている
様子が伺える
鼻で笑い片付けられたディスクの上に持ってきた書類を無造作に
おいた司は背を向けかけて何か引っかかるものを感じて足を止めた


ディスクに変わったところはない、しかし何かが違うと本能が
告げていた・・・一歩下がって改めて部屋の様子を伺う


首を傾げた瞬間司の鼻が閉め切られた部屋の空気に僅かに残る
タバコの香り、自分の知る限り楓はタバコを吸わない
だから社員はもとより来客の間でもこの部屋での喫煙は
タブーとされている


あの冷酷な瞳に見つめられながら一服したところで
味も香りもわからないだろうが・・・
主がいないこの部屋に入れるのは自分と秘書ぐらいのもの
自分ではない、しかし秘書でないことも確実だと言える
そんな事が知れた日には確実に首が飛ぶだろうから



じゃあ一体誰が・・・



足元に視線を移すとディスク脇のゴミ箱の中に見慣れぬ封筒が
捨てられていた
近づいてみると封筒の他に数枚の書類が捨てられていて
何気なく文字を目で追った司の表情が瞬時に険しくなる



「っだよ・・・これ・・・・」



拾い上げた書類を1枚また1枚とめくる指が緊張と怒りで震えだす
最後の1枚をめくり終えたその時背後のドアが開いてこの部屋の主
楓が姿を見せた


立ち尽くす司とその手に握られた書類に気づいた楓の顔に
一瞬だけ驚きが走ったように見えたが、すぐに消えて
物凄い形相をした司の前を横切ると革張りの椅子に腰かけ
黙って新しく持ち込まれたばかりの書類に目を通し始める

時を刻む音だけが響く静かな部屋の空気が揺れた
ディスクの上には叩きつけられた司の両腕と散らばった書類


「なんの真似かしら」


楓は書類を静かに置くとゆっくりと顔を上げ
全身から怒りのオーラを発散させる司と向き合った


「・・・どうゆうことだよ」


見下ろす司も見上げる楓も一歩も譲らない
先に視線を逸らしたのは楓
軽く息を吐き出し両手を組み合わせた彼女は再びあげた
視線でしっかり司を見つめると抑揚のない口調で切り出した



「持ち込んできたのは溝鼠のような下品な人間です
 この記事も虚言をすぎないでしょう・・・
 それとも司さんあなたこれに真実が含まれているとでも?」



まっすぐ楓を見つめていた司の視線がほんの一瞬迷うように揺らいだ
その一瞬の動きに楓は目を細めため息をつくと司に向かって下した
決断を言い渡す



「DNA鑑定を行います、あなたも検体を提出するように」

「なっ!?」

「これは道明寺の家にも関わること、あなたに思い当たる節が
 ある以上確かめないわけにはいかないでしょう
 これは決定事項です、口答えは許しません」



話は終わったと言わんばかりに楓はまだ目の前に立ち尽くす司を
完全に無視して西田とこの後のスケジュール確認を始める
自分の事なのに自分の意思が少しも盛り込まれない歯がゆさ
昔から幾度となく感じてきた苛立ちに司は唇を強く噛み締めると
足音も荒々しく部屋を後にした










to be continued...
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