螺旋模様

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act.18

written by  emmiy




41.





俺の腕の中で意識を失いながら呟いた司の妻の言葉に何か引っかかる物を感じていた。



「……怖い……守って……司さんの子………デニスが……」




司の子??

デニス??


守って・・・ってなんだ??



司の子ってったら、司の妻であるこの女の腹ん中にいるんじゃねぇのか??


ん、待てよ!!

なら、何で私の子って言わなかった??

普通・・・自分のお腹を痛めた母親なら、自分の子供って言うよな??

まだ、お腹に居るから実感がないのか??



イヤ、そんなことはねぇ・・・



何かが違う・・・・


なんなんだ???




あきらはハッとっして、
今だ自分の腕の中で苦痛に満ちた顔つきのまま意識をなくしたその人を
マジマジと見つめた。




司に隠し子?


それなら彼女の言い方も頷ける・・・




司に・・・司に・・・・司に隠し子か??



ま、まさかな??




と思いつつ、俺は自分の腕で気を失った司の妻を使用人に託すと、足早に
道明寺邸を後にした。
当初の目的でもあった司と会うことなどもはや俺の念頭にはなく、その足で
空港に向かうと、一番早い飛行機に飛び乗った。







42.





その頃、司は・・・
自分のすべき事を今は一つずつ気長にこなしていくしかなく、それは自分が
決めた道ではあるにも関わらず、忍耐と精神力のいる作業だった。

先日のT社再建をロスマン社がバックアップすることをメディアが挙って
書き連ねてくれたお陰で、幾分、ロスマン社の仕事が遣りやすくなりはしたが、
やはり、自分はロスマン社の中では異分子で、煙たがられているのも
仕方のないことだと思っていた。


ソフィアと結婚して、ロスマン社を引き継いだ時点の業績を落とすことなく、
出来れば少しでも何かを残して、ロスマン氏に返すか?もしくは自分が居なく
なっても機能するような物をうち立てなければならなかった。

前任者であるデニス・スタントンはなるほど仕事の出来る人物なのかも知れない。
だが、俺から言わせると・・・先が全然読めていない。
ただ目先の利益のみしか頭が働かないように見える。
取りあえず、業績を上げるだけならそれもいいだろう・・・
しかしそれでは企業は成り立って行かない。

ロスマン氏がデニス・スタントンに不満を持っていたのはこうした背景があっての
ことかもしれない。








ロスマン社では守旧派と革新派が水面下で腹の探り合いを続けていた。
勿論革新派を動かしているのはデニス・スタントンだが、今回の司の発言で
世間は司の経営能力を褒め称えたことから、引き金となっていた革新派は
苦虫をかみ殺しながらも沈黙を守るしかなかった。


そんな中、デニスは突如夜逃げのように行方の解らなくなっていた天草一家の
捜索に躍起となった。
デニスが司の弱点を知って居たわけではなかったが、悔しいが、道明寺司の
経営手腕は超一流で、自分が長年掛かって培った物をことごとく否定され、
道明寺司の取った案は時流に乗り、全てが好転する方向へ向かっているように見えた。

そうなると、革新派の中にもデニスより道明寺司側に寝返る物さえ出てくる。

道明寺司をロスマン社側から蹴落とせないと判断したデニスは、矛先を変えることにした。


司の想い人である天草つくしとその娘美夕は奇跡的と思えるほど何故か後一歩の所で、
助かっていた。
その報告を聞く度に自分の運の無さを恨んだものだが、そうこうしている内に
天草一家の行方が解らなくなった。
これは道明寺司が隠したものと思ったデニスは、司の身辺をくまなく調査したが、
天草どころか、私生活に置いても道明寺財閥総帥、そしてロスマン社社長に置いても
何も出て来ない。
友人との接触はおろか、女の陰さえ有りはしない。
あるのは、これほどのことをこなしているのかと思えるほどの仕事量と、妻である
ソフィアに対しての偽りの優しさだけ・・・


道明寺司が隠したんじゃないのか??

なら、誰が・・・・・

ヤツの母親、道明寺楓・・・って線も捨てがたいが、元恋人とのことは母親は
ことごとく反対していたと聞き及ぶ。
たとえ、自分の孫だとしてもそんな相手を養護するほど甘い女じゃない。
あの、道明寺楓って、女は・・・・・





依然、見つからない天草一家を憎々しく思いながらも目先に捕らわれがちのデニスは
引き続き道明寺司側と天草清之介の実家側からの捜索を強化するよう指示した。







43.





先日の取締役会で、ロスマン社の構成がある程度把握出来たと言っていいと思う。

守旧派と革新派・・・・


守旧派はロスマン氏の路線を頑なに守ろうとしている。
良く言えば忠実、しかしロスマン氏が不在の今、新たな構想は皆無で前例のみを
重視する・・・
俺から言わせればただ単に事なかれ主義で日々を過ごしているに過ぎない
まっ、こういった類は何処の会社にも居る。
疎まれ安い存在だが頭の固さが効を労することもあるのも事実だ。


そして、デニス・スタントン率いる革新派は自分たちが居るからこの会社は
成り立っている。
そう自負して止まない。
しかしそれはロスマン氏の経営方針に基づいた画期的な構想などではなく、
ただの儲け主義、未来を想定しての経営方針ではなく、行き当たりばったりにしか
俺には見えない。
このままでは今までロスマン氏が培ってきたロスマン社の経営方針も信用も
全てが失墜してしまいそうだ。
これだけの大企業だから、目に見えて転げ落ちることはないと思うが、
目に見えない所で確かにしわ寄せが起きている。その皺が修復不可能になる前に
栄養を与え、みずみずしい肌に修復しなければならない。





守旧派と革新派が犇めくこの中に、どちらにも属さない取締役が居た。
司はこの取締役会が始まった当初、第三者の立場で傍観していた。

年の頃はデニス・スタントンと同じくらいだろうか?
その取締役の動向を観察し、同時に興味を持ったのも確かだった。



後日、T社の調査報告書と共にその取締役の業績等々が報告された。

そこで司は目を見張るべき逸材を見いだしたのだった。
このことはロスマン氏は知っていたのだろうか?

もしかしたらロスマン氏の秘蔵っ子としてこの取締役に託されたのではないだろうか?


そんなことが司の頭をよぎる。

ロスマン社に取って十分過ぎるほどの光明になりうる人材だった。



後はソフィアには悪いが、諸悪の根元を排除させて貰うだけだ!!





司はここの所、穏やかな気持ちで仕事をこなせるようになってきた。
それは結婚してから、イヤ・・・あいつと別れてから初めてこんな気持ちに
なった様な気がする。


今、あいつと俺の娘には天草が寄り添っている。
それを思うだけで腸が煮えくりかえる様な嫉妬と焦燥感を感じる。

だが、今は遣るべき事を俺しか出来ないことに専念することで平常心を保ち続けていた。

そして妻であるソフィアの妊娠が俺をこの上なく穏やかで優しくしているの
かも知れない。
もし、ソフィアのお腹に宿った子があの過ちから出来た子供だったら
こうはなっていなかっただろう・・・

俺の子じゃなければ、お腹の子の父親は誰だって構わない。
ってより、ソフィアには悪いが、興味すらない。
俺はあいつが妊娠中になし得なかった事を、ソフィアを通してなし得ようと
しているのかも知れない。
それは、ソフィアに取っては至極惨い事なのかもしれない。
だが、妊婦である彼女に自然と労りの言葉が出てくるのは多分こういう事なんだろう・・・


しかし、まさかあきらが訪れたとは思いもしない俺だった。










to be continued...
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