螺旋模様

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act.19

written by  emmiy




44.





飛行機に飛び乗り急遽帰国を果たしたあきらは、帰り着くや否や仲間達を招集した。


NYから戻ったばかりの疲れた身体に情け容赦なく、双子の妹達がまとわりつく。
が、今日ばかりは相手をしている余裕もなく、来客は書斎に案内するよう使用人に
言い渡すと仕事だからと妹たちを言いくるめ書斎に籠もった。



秘書に仕事の話と、牧野がその後どうしているのか調べるよう指示していると、
ザワザワとあいつ等が来たことを知らせるように静まりかえっていた書斎が
慌ただしい物音に支配されつつあった。


電話を置いた俺は、

「おうっ、早かったな!!」


「何だよ!!その言いぐさは・・・まっ、おまえが呼び出し掛けるなんて、珍しいよな。
 で、何があった??」


「あきら、NYじゃなかったっけ・・・何で、ここに居るの??
 帰国は週明けの予定だって聞いてたけど・・・」


「へぇ〜〜、あきらくん・・・NYに行ってたんだ??
 で、司と会って来たの??」



「おい、ちょっと待て!!
 おまえ等、同時に話すなよ。
 んで、類・・・何で俺がNYに行ってたって知ってんだよ」


「あぁ、昨日例の件でおまえんとこ連絡入れたら、秘書がそう言ってた。
 で、早く帰って来たって事はあっちで何かあったの??」



あきらは類の質問に答えを出さないまま、そこに集まった皆に問いかけた。


「なぁ、牧野が何処に居るか知ってるか??」



「えっ、つくし???」







あの時、つくしの心情を思って探さなかった仲間達だったが、あれからの月日が
つくしの心を癒すのに十分とも思えるような思えないようなそんな歳月を誰にも
関わりを持つことなく過ごしているかと思うと心が痛んだ。


不意にあきらからでた言葉に動揺を隠せない滋だった。

そこに居た誰もが、目を合わせると首を横に振る仕草をしてしまったいたが、
ただひとり滋だけは瞳は焦点が合わずあらぬ所を彷徨い、誰かと目が合うと
忽ち逆方向に泳がせていた。



「あんた、何か知ってるの??」


「えっ、なんで・・・あたしは何にも知らないよ」


「じゃぁ、何でそんなに動揺してんのさ!!」


「そうですよ。何か変ですよ滋さん。
 牧野先輩のことで何か知ってるんだったら教えてください」



司のロスマン社社長就任パーティの時、司に言ってしまった事を後々まで悔やんでいた
滋はその後まるで何も知らなかったように口をつぐんだ。
その時の滋は、つくしにそして司にも裏切られた様なそんな気持ちがどうしても拭えなかった。

ただ、つくしのその後の様子だけは定期的に報告が入るようにしていた。


このまま黙って居ることは叶わない事だと思った滋は意を決して話し始めた。

「つくしはつくしは・・・天草 清之介と結婚したよ・・・
 あたしが最後につくしに会った時にはお腹が大きかったから・・・!!
 きっと今頃は子育てに忙しくしてるんじゃないかな!!」


あきらは滋の言葉に思わずガシッと肩を掴むと、前後に揺さぶるようにしながら問いただす。

「何だって??牧野が子供を産んだ???
 本当か?それっ・・・・・」


「い、痛いっ・・・
 ど、どうしたのよ。あきらくん・・・そんなに興奮して!!
 つくしが子供産んでちゃ・・・いけなかったの?
 女の子が生まれたって報告は受けてるけど・・・・」



「あ、悪りい・・・その子供・・・天草の子なのか??」


その言葉に今度は滋が目を見張る。
だが、あの二人のシチュエーションからどう見ても二人の子供であることは滋には
疑いようもなかった。



「そんなの決まってるじゃない・・・
 天草さんとの子供じゃなかったら、誰の子だって言うのよ!!」




あきらは滋の答えに何か考える風に頭を抱えていたが、ボソッと呟いた言葉に
類を除いた皆が驚きを隠せない。

いつものように飄然と出た類の言葉は・・・


「誰の子って・・・司の子でしょ!!」


「類!!??」



「何でそう思うんだ??」



「だって、あの牧野だよ。司と別れてすぐ他の男とどうにかなるような女じゃ
 ないでしょ!!あの場にいた俺だってダメだったのに・・・
 天草と子供が出来るようなことするはずない・・・
 でも何であいつ、天草だったんだろ??別に俺でもいいわけじゃない??
 何か、むかつく!!」




「おいっ、類!!ひとりで自分の世界に入んなよ・・・
 で、やっぱ牧野の産んだ子は司の子って訳だな!!」


「それしかないでしょ・・・・・」


「そう言えばそうですよね。
 あの奥手の先輩が男から男に渡り歩くなんて全然考えられないし・・・
 で、美作さんそれが帰国を早めた事に何か関係あるんですか??」


「どうしよ・・・・それが本当なら、あたし大変な事をしたかも知れない」

「滋・・・・!!」



「あたし、司につくしが天草さんの子を妊娠してるって、言っちゃったんだよね。
 どうしよう・・・・・まさか、司の子だなんて思いもしなかったから。。。。」



瞳には涙を溜、ガックリと肩を落とす滋だったが、それに寄りそうように抱きしめる桜子。

「心配すんな!!大丈夫さ・・・・・」


そう言うと、あきらの大きな手が滋の頭をグシャッとなでた。




「今から説明するわ!!
 俺、NYでの仕事を済ませて、司に会うため道明寺邸に行ったんだわ。
 あいつ、土曜日にも関わらず仕事で居なかった。出てきたのは司の奥さん。
 まっ、ロスマン家の自慢の娘、あいつの奥さんにも会って置こうと思ってたから、
 司にも会いたかったが、それはそれで仕方ないと思ってた。

 で、出てきた司の奥さん、ソフィアだったっけ??
 妊娠しているって聞いて司も幸せに暮らせてるんだ?ってちょっと
 拍子抜けしたけどな・・・
 ただ、一目見ただけで体調の悪さが分かったから、休むように促して
 帰ろうとしたんだ。
 そしたら、彼女・・・崩れるように意識を失った。
 でも、意識を失いながら言ったんだよ・・・
 『……怖い……守って……司さんの子………デニスが……』
 ってね。俺も最初は司の子だから、この人のお腹にいる子なのかと思った。
 でも、何か引っかかるもんがあるんだよな。
 で、この妻以外にもしかして司に子供が居るとしたら・・・
 それは牧野しかいないんじゃないかと思ってな。
 それで、慌てて飛行機に飛び乗ったってわけだ!!
 しかし、まさか本当に牧野が子供を産んでいたとはな・・・・」



「おいっ、それって牧野の子が司の子でかなり危ないって事なのか?
 んで、デニス・・・って、誰だよ!!」



「あぁ、総二郎は知らないかもしれないね。
 デニス・スタントン、ロスマン社の元社長さ。
 司が結婚して社長に就任するまで、彼が実質上ロスマン社bQだった。
 社長の座を司に譲った形になったけど、今もロスマン社で虎視眈々とトップの座を
 狙ってるんじゃないかな。
 そのデニスが絡んでるとすると・・・・・」





「で、牧野先輩のその後は分かったんですか??」



「イヤ、今秘書に調べるよう言ったから・・・・・」


そう言って携帯を見つめるあきらだったが、今だ秘書からの報告は入って来ない。

「あっ、もしかしたら私の方で調べた方がいいかも・・・・・
 今月はまだ報告が入ってないし・・・・
 ちょっと、調べて報告させるね」


「でも何で、本当にデニスってヤツは司の子・・・それも公になってない牧野の子を狙うんだ??」


「司の子がいて拙い事って・・・・・ま、まさかなっ!!」



「何ですか??花沢さん・・・何かあるんですか??」



「イヤ、司の・・・あの女の腹に居るのが司の子じゃないとしたら??
 牧野の子が狙われるのも頷けるような気がする。
 それに、いくら夫婦だからって、司があの女に孕ませるようなことしたなんて
 信じられないし・・・」




「うわっ、何か訳わかんなくなりそ・・・
 これって昼ドラよりドロドロしてない??」



「本当は道明寺さんの子が先輩の子で、
 道明寺さんの奥さんの子がそのデニスって人の子なんですか??」



「おいっ、桜子!!
 誰もそんなこと言ってねぇぞ・・・
 司の子は間違ってないけど、デニスって言うのはちょっと出来すぎてないか??」



「そうですか??
 私は多分そうだと思いますけど・・・」

「桜子、何で・・・何で???」



「いいですか?考えて見てください。
 そのデニスって人は道明寺さんの子供が邪魔な訳ですよね。
 だから、奥さんも道明寺さんの子を守ってって言ったんじゃないですか??
 なら、そのデニスって人が道明寺さんの子供が邪魔な訳は、自分の子供に
 ロスマン社を継がせたいと思ってるからじゃないですか??
 そして、もし道明寺さんに子供が居なければ、あわよくば道明寺財閥も手中に
 収められるくらいは考えてるんじゃないですか?」



「桜子、おまえ怖ぇ〜よ。
 どうしたらそんな考えが出来るんだ??
 っても、この場合おまえの意見に間違いはなさそうだが・・・
 にしてもおまえ本当は年誤魔化してないか??」


「西門さん、それはあんまり失礼じゃないですか??
 私は本当にあなた達より2つ下です」



そんなやり取りをしている時、滋の携帯が鳴り出した。






「天草さんとつくしの行方が分からなくなった・・・」


「何だって???」



「天草さんは勤めていた寿司屋から10日ほど前に突然姿を消した。
 寿司屋に問い合わたけど、夜逃げのように1枚の書き置きが残されただけで
 居なくなったらしい。
 当日まで、二人して一生懸命働いていたらしいんだけど、そこの大将も
 狐に摘まれた様だったそうよ・・・
 つくし、何処に行っちゃったんだろ??」




「それって、もしかして・・・・」


「今度は類かよ・・・」



「司が隠した?イヤ、司じゃないな・・・ってことは、司の母ちゃんか??」



「マジかよ・・・・・!!」



「まっ、司の母ちゃんが隠したなら心配ないんじゃない??
 多分、ロスマン社の取締役如きに探し出せるようなヘマはしないだろし・・・
 でも・・・司にデニス・スタントンが動いてることだけは伝えた方が良さそうだね」





何故かいつも説得力のある類の言葉にそこに居並んだ皆は安堵のため息が漏れる。


司とつくしがどんな形になろうとも、自分たちにどんな仕打ちをしようとも、
ここに居るもの達にとっては、大切な仲間であり掛け替えのない人なのだ。


出来るならば二人の幸せな笑顔を見続けたいと願ってきた仲間達だったが、
それでも司もつくしも今を懸命に生きている事を願うばかりだった。





何故かデニス・スタントンの企みを司に告げる役を貰ってしまった類は、渋々ながら、
といいつつも司に会うためNYを訪れた。







45.





アポも取らず突然オフィスに現れた類に司は呆れつつも、そんな変わらない類が
懐かしくも嬉しかった。


「司!!元気そうだね・・・」


「おうっ、おまえは相変わらずだな・・・」



「何?それ・・・
 まっ、いいや!!
 それよか、司に教えてあげたい事があってね。
 わざわざ俺が出向いてきてあげたって訳・・・
 どう?こんな親切な親友が居て司も幸せだよね」


「はぁ〜っ、てめぇ、ざけてんじゃねぇ!!
 この忙しい時に俺をからかいに来やがったのか??」



「うん、そうかもね!!
 司が幸せそうな顔してるか見に来た。
 あれほどの犠牲をおまえ達は払ったんだ。
 だから、おまえが今どんな顔してるか興味あったしね」



「なんだ?それっ!!
 おまえ、やっぱ訳わかんねぇの・・・変わってねぇな!!」


「そお?
 今の司は何か複雑な顔してるね。
 幸せでなく、でも不幸でもなさそう??
 なんていうんだろ??
 何かを成し遂げようとしているそんな顔だね」


「んなことどうでもいい・・・
 で、俺に何か教えてやるんじゃなかったのか??
 早く言えよ!!俺だって何時までも付き合ってられねぇぞ・・・」


そう言いながら、入口に目配せを送る。
そこには、秘書がドアを開けたり閉めたりと落ち着かない様子で中を伺っていた。


「そのようだね。
 まっ、彼が可哀想だから手早く終わらせてあげるよ」




俺は先日あきらから聞いた司の妻に話を持ち出した。
そして、天草と牧野が居なくなったことも触れ、デニスが何かを企んでいる
らしいことを司に告げた。


が、当の司は類の言葉に驚きは見えなかった。
類自身、司がそんなことも知らないはずはないと思っていただけに司の
リアクション自体は予想されていたものだった。


牧野の行方を聞き出そうとしたあたりでも、司の変化は見られなかった。

司は牧野の居場所を知らない!!

そう判断した類は、この状況下で以前の司だったら何を置いても牧野の居場所を
突き止めようとしていただろう?
それが平然とした表情で”俺は知らない方があいつ等のためだ!!”と言い切った
あたりで司の成長を見せつけられた様な気がした。






本来なら牧野を手放した司は自分を失い、ただ暗闇に身を置くだけだったに違いない。
いくら、この別れが仕方のないことだと頭で分かっていても、細胞一つ一つが
悲鳴をあげていたの違いない。

だが、今の司は類から見ても何か雰囲気が違っていた。


確かに牧野と付き合っていた頃のような幸せに満ち足りた雰囲気ではない。
でも、確かに今まで十数年間付き合ってきて見たことのない、触れたことのない
空気を司に感じていた類だった。





「司・・・俺には何かは分からないけど、この状況を打開する何かがおまえには
 あるようだな」



「類・・・!!!」



「いいよ。言わなくて・・・・・
 俺等はおまえと、そして牧野が元気で居てくれれば何も言うことはない」



「あぁ、悪りぃな!!
 でも、一つだけ・・・・・
 見つけたんだ。最強のヤツをな!!
 やっぱ、フランク・ロスマンって人はすげぇよ・・・
 類、俺あの人に少しでも関われたことホントに誇りに思ってる。
 今はこれしか言えねぇけど・・・もう少し時間をくれないか?
 その時が来たらきっとおまえ達の協力も必要となってくる。
 なっ、その時は頼むわ!!」










to be continued...
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