錆びつく森

| | top

act.9

written by  emmiy




16.





ビオラブでの調査結果を聞いた後、久々に道明寺邸に足を踏み入れた。
今回の帰国はビオラブ訪問が第一の目的ではあったが、同時に道明寺財閥の
総帥としての仕事も控えていた。
東京に到着後、そのままビオラブを訪問した。
そこにまさか牧野が居るとは・・・
しかも、依頼した物を調査したのが牧野本人だったとは・・・




あいつを見た途端、俺の心臓は飛び出るんじゃないかと思うほどに驚いた。


あいつに触れたい・・・思いっきりこの腕で抱きしめたい。
その衝動に駆られながらも自分を抑えるので精一杯だった。



俺は心の内を誰にも・・・まして牧野にも悟られない為、瞬時に仕事の顔へと変えた。
そうでもしなければ、感情がコントロール出来そうになかった。




今の俺は結婚して妻のいる身・・・例えそれが自分にとって偽りであろうとも、
変えようのない事実だし、それを決めたのは誰でもない俺自身
このことに関して、俺は後悔などしていない・・・つもりだった。
あいつを見、あいつと同じ空気を吸っていると思うだけで、想いが溢れ
血液が逆流するんじゃないかと思うほどの高揚感が俺を襲う。
しかし、その直後・・・もう俺にはあいつに対して何の資格もないんだ!と
再確認されているようで、呼吸することさえ困難に思えてくる。




あいつの居ない世界では、心にぽっかりと穴が開いたようで・・・何も感じない。
それでも自分のすべき事を道明寺は勿論のことロスマンを立て直し、
今だ意識の戻らないフランク・ロスマンに一日でも早く返す日が来ることを願って、
寝る間もないほどに忙しい日々を送っている。
だからこそ、俺は平常心を保てているのかもしれない。





久々に帰った道明寺邸の一室で仕事をしながらも、ふとあの頃を思い出す




ここはやはり、思い出がありすぎるからだろうか??
あの頃の自分とあいつを思いだして、思わず苦笑する。


そんなとき、使用人が慌てて部屋に走り込んだ。





「司さま、NYからお電話です。
 申し訳ございません。何やらお急ぎの様子でしたので・・・」


そう言って手渡された電話を無言で受け取ると、耳に当てる。




「何だとっ・・・・??
 それで、どうなんだ??」


「・・・・・・・」


「マリはどうしてる??」


「・・・・・・・」


「そうか?
 警備の人数を増やせ、今まで以上に厳重にな・・・
 これ以上なんかあったら、許さねぇからな!!
 それと・・・予定は変更だ。これから帰る。
 東京本社にその旨連絡してくれ・・・」



そう言って電話を切ると、使用人にNYに帰る旨を伝え・・・ジェットの出発準備を
するよう命じた。











NYに降り立った司はそのままロスマン氏の入院する病院へと急いだ。




病室に入ると、ロスマン氏の側にマリが座っていた。

俺が入った事さえ気づかず、ただただ祈るように・・・・・





「マリ・・・大丈夫か??」



その声にやっと俺を見たマリの瞳は真っ赤で一人泣きながら必死に耐えていたことが伺えた。



決して愛している女ではない・・・・なのに、このまま放っておくことは俺には出来なかった。

自分の胸に抱き寄せ、身体を包み込むように抱きしめた。
嗚咽を上げながら泣いているマリ

「大丈夫だから・・・お父さんはマリを置いて死んだりしないから・・・」


そういいながら泣きやむまで抱きしめていた。


思いがけず司に抱きしめられたマリは、胸の奥にしまい込んでいた仄かな想いが
溢れ出そうになる。
こんな大変な時だということも忘れそうになるくらい、司の腕のなかで幸せと
安らぎを感じていた。

数年前、初めて司に会った時から心の奥に感じていたマリの想い・・・
だが、同時に司の心には一人の女性が居ることも知った。

本当なら今頃、司は東京でその女性と共に過ごしているはずだった。
そう、あんな事故さえ起こらなければ・・・

今、優しく包み込んでくれるこの人が自分に何の感情もないこと・・・ただ哀れんで
くれているだけだって事は分かっていた。
分かっているはずなのに、今の状況がマリの心を弄ぶように翻弄する。


世間体には世界中に認められた夫婦であり、最も信頼できる男性・・・
そして、司は気づいてさえくれないが、マリにとっては愛する人だった。

普段は出来るだけ司に気づかれないよう素っ気なく振る舞っていた。
でも、混乱した今の状況でこんなに優しくされると、自分を愛してくれてるのでは
ないかと錯覚しそうになる。


「司さん・・・ありがとう!!」


「いや、いいさ!!それより、どうなんだ??」



「まだ何時急変するか分からないらしいの!!
 2・3日が山だろうって・・・ドクターが」


「警備は増やしてたはずだが、どうして・・・・・」




「ドクターが薬を入れようとしたの。
 ドクターは見たことなかったけど、側にいつもの看護士が居たからSPも部屋に入れたの。
 ただ、いつものドクターと違うからって、SPが立ち会ってくれてたのが幸いして・・・
 でも、ほんの微量だけどすでに入っていて・・・一時は脈拍も減少してもうダメかと思った。
 パパがこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったら、怖くて怖くて・・・」



そう言いながらまたも大粒の涙が頬を伝っていた。
親一人、子一人でしかも世界に名だたる企業の重責までがこのか弱き女性の肩の掛かって
いるかと思うと、このまま放ってはおけなかった。


だが、このことからもやはり総二郎が言っていたようにあの事故は偶然あった事故ではなく、
何者かによって仕掛けられたものだと思える。




そして考え過ぎかも知れないが、俺が東京に行っていた時期を狙って事を起こしたと
すれば・・・早急に対処する必要がある。



このまま俺がここに居るべきなのだろうが、早く遣るべき事をしなければこれ以上
取り返しの付かないことになるかも知れない。
そう思った俺は、俺の連絡で駆けつけた西田と姉ちゃんにここを任せ、全貌を究明すべく、
俺の執務室に戻った。







17.





ビオラブでの報告を受けた段階で、ロスマン側の責任者リン・ウエストの行方と、
ビオラブ社の担当者の行方を調査するよう指示していた。
この段階でS社が画期的な発見と発表した背景とこの両社の担当者が二人ともすでに
退職していることに疑問を持って当然だろう・・・


俺がデスクに座るのを見計らったように秘書の一人が調査の結果を報告に来た。
当然の事ながら、道明寺の情報網は完璧ですでに二人の行方を突き止めていた。






「社長・・・昨日依頼を受けました調査の結果をご報告致します。
 結果から申し上げますと、ロスマン社、ビオラブ社、双方の担当者はすでに他界しております。
 まず、ロスマン社のリン・ウエスト氏ですが、1年半前にロスマン社を依願退職その後
 イギリスに住居を移しております。
 その1年後フランスからのバカンスの帰りに飛行機事故でこの世を去りました。
 これはもう少し調査が必要かと思いますが、S社社長、当時のロスマン社社長
 サム・ラスカン氏との関わりが浮上して参りました。
 そして、ビオラブ社の担当者・・・こちらは技術者ではなく業務担当ですが、1年前に
 体調不良を理由に退職しております。
 その後、病状が悪化・・・こちらは病気でこの世を去ったものとされておりますが、ただ
 その病気自体が担当者の家族は負に落ちないようで、何度か警察に出向いたようですが、
 警察側は取り合わなかったようです。
 ですので・・・双方、死因に関して警察の介入はございません。事故死、病死で
 処理された模様です。
 以上が今現在知り得た情報です」


そう言いながら報告書を俺の前に差し出した。
それに目を通しながら、




「引き続き、リン・ウエストが退職後1年何をしていたか?とサム・ラスカンの関わり、
 そしてビオラブ社担当者の死因を調査するよう指示してくれ」



秘書が退室した後、ふうっとため息をひとつ付くとS社と花沢物産の、「断熱塗料の
世界的なマーケティングに関する事業合意」が発表された事に関して、イギリスに滞在中の
類に連絡を取るべく携帯電話を手にした。

電話帳で類の番号を出しながら、数ヶ月前に想いを馳せていた。




俺の道明寺財閥総帥の就任パーティに類と牧野を招待した。
あの時、俺は何故牧野のパートナーに類を選んだのか??

俺の心の奥底で類を選んだ時点で、牧野とは別れることになるのかも知れないと
思っていたのか??
あいつを任せられるのはやはり・・・類しかいないと思っていたんだろうか??
類と牧野・・・二人にはどんなに足掻いても喚いても俺の立ち入ることの出来ない何かがある。
だから余計にでも類の前で牧野は俺の物だと誇示し続けた様な気がする。


あの時、別れを切り出したのは牧野だった。
そうすることで俺に踏ん切りを付けてくれたんだと思う。あいつはそんな女だ・・・
自分がどんなに傷つこうが、相手を思いやる。そして、その相手の分まで自分が傷ついてる。
だから・・・牧野を優しく包んでやれるのは類しかいないと、無意識に思っていたのかも知れない。




ふっ、なさけねぇ!!
俺があいつの手を離したのによぉ

あいつ、元気そうだったな・・・
ホッとした反面、寂しいのは何でだ??

あいつの事だ、また強がってるんだろうけど・・・


じゃねぇか?
なぁ、俺のこと・・・もう、忘れたか?????


があ〜〜何、考えてんだぁ??
もう、後戻りなんて出来ねぇだろうが・・・


取りあえず、こいつをどうにかしないとな・・・




どんどん膨れあがる想いを無理矢理中断させ、表示されたままの類の文字に慌てて
発信ボタンを押すと耳に当てた。










to be continued...
| | top
Copyright (c) 2006-2007 Tsukasa*gumi All rights reserved.

powered by HTML DWARF