錆びつく森

| | top

act.12

written by  yuna




23.





NYに降り立ったあたしたちをロスマン社の社員が待ち構えていた。
用意された車に乗り込もうとしたとき、
見覚えのある人物に声をかけられた。




「牧野様、お久しぶりです。」

「もしかして・・・西田さん?」

「牧野様はこちらのお車へどうぞ。」



西田さんは口数少なくあたしをもう一台の車に促した。



「でも、あの・・・」



何がなんだかわからないあたしに西田さんは小さな声で
「椿様がおまちです。」
と周りを気にしながら告げた。




お姉さんが・・・?
司と別れる少し前に会って以来もう会うこともないと思っていた。
あたし自身今までお姉さんの言葉に何度となく救われてきた。
司と別れたときお姉さんに連絡を取りたいと思ったのも事実だ。
1番お姉さんに話を聞いてもらいたいと思ってた。




でも今この状況でお姉さんに会ったら
あたしどうなっちゃうんだろう??
司は結婚してて、多分奥さんと幸せに暮らしてて、
あたしが司にもらいたかった愛情を全身で感じてる・・・
もう司とはどうにもならないのに・・・・




ただ司の周りにいる人と関わってしまうと
司への気持ちがセーブできなくなりそうで怖かった。
あたしが車に乗るのに躊躇していると、
それを感じた西田さんがあたしに一歩近いてまた小声でつぶやいた。




「司様には椿様がここに迎えに来ていることは
 内密にしておりますので安心してください。」




その言葉に顔を上げると西田さんがにっこり微笑み
再びあたしを車に促した。




そして一緒に来たビオラブ社の社員とわかれ車に乗り込む
とそこには椿お姉さんが笑顔で座っていた。





「つくしちゃん、久しぶり!元気だった?」

「お久しぶりです、お姉さん。」



相変わらず綺麗で上品な雰囲気のお姉さんだったが
どことなく影が見える。
そこがどうしても気になってあたしが口を開こうとしたとき
お姉さんが今までに見せたこともない悲しそうな表情で話し始めた。





「つくしちゃん・・・ごめんなさいね。
 あなたと司には幸せになって欲しかった。
 それなのにあなたたちを結局道明寺財閥に巻き込んで
 こんな結果になってしまった。
 司もつくしちゃんも守ってあげたかったのに・・・・
 つくしちゃんを傷つけることしかできなかった・・・・
 本当にごめんなさい。」




そういって深々と頭を下げるお姉さんの姿に
あたしは涙をこらえることができなかった。




司とずっと一緒にいたかった。
ただ一緒にいられるのならそれだけで良かったの。
「もう少しだけ待っててくれ。」という司の気持ちを
そのまま受け入れたかった。
でも司が好きで、愛しているからこそ
手を離さなきゃいけなかった・・・
司の気持ちを拒んだのはあたし。全部自分が決めたこと・・・・
わかってるんだよ。
わかってたんだよ・・・・




でもずっとあたしと司を見守っててくれたお姉さんの
「ごめんなさい。」という言葉は
あたしの心の奥底に開いた大きな穴を何よりも揺るがした。





泣く権利はあたしになんかないってわかってる。
でも涙は止まらなくて、
花沢類の前でも、西門さんの前でも流せなかった涙を
あたしは大きな声を上げながら流し続けた。
お姉さんはそんなあたしを優しく抱き寄せて一緒に泣いてくれたの。





「ごめんなさい・・・」とつぶやきながら・・・







24.





あたしは泣き疲れてそのまま眠りに落ちていた。
ここ何日間かの不眠状態が嘘のように深く眠り込んでいた。




途中、司の声を聞いた気がした。





「勝手なことするんじゃねえよ!
 今こいつがどんなに危険な状態にいるか
 姉ちゃんにも話してあるだろ?」





・・・危険な状態??





「それくらい理解してるわよ!!
 でもあんた1人でつくしちゃんを守れると思ってるの!!?
 こんなにくたくたになるまでつくしちゃん追い込まれてるのに
 放っておけないでしょ?少しは頭使いなさいよ、このバカ!!!」






・・・・あたしを守る??







あたしが危険な状態で司があたしを守る?
何の会話をしてるのかさっぱりわからない。
とにかく目を開けなきゃ・・・






はっとして目を開けるとあたしは見覚えのない部屋の
ベッドの上にいた。
今のは夢・・・?
ボーっとしたままベッドに座っていると部屋の電話が鳴った。





「もしもし・・・?」

「私ロスマン社のジャック・マートスと申します。
 本日午前10時よりロスマン本社で会議を行いますので
 9時頃お迎えに上がりたいのですがよろしいでしょうか?」

「へ・・・?」





午前10時って・・・ぎゃっ!!!
あたしほとんどまる1日寝てんじゃん!!!
頭がボーっとするのも無理はないよね。





「牧野様・・・?」

「は、はい!わかりました。」



電話をきってサイドテーブルに受話器を戻そうとしたとき
メモが目に入った。







“ぐっすり眠ってたので勝手に部屋に入っちゃってごめんね。
つくしちゃん、何かあったらすぐ電話ちょうだいね。
あたしはいつでもつくしちゃんの味方よ。
また2,3日中に連絡するわね。     椿“








お姉さん、ありがとう・・・
あたしはそのメモを鞄の中にしまって身支度を始めた。
たっぷり睡眠をとったことで気分は晴れやかだった。



しかしこのときはまだ気づいていなかったの。


これからあたしを待ち受けている壮絶な問題があるなどとは
知らずに・・・・










to be continued...
| | top
Copyright (c) 2006-2007 Tsukasa*gumi All rights reserved.

powered by HTML DWARF